激しい雨が降っていた
濃い緑の隙間から
ほのかに甘い香りが漂う
クチナシだった
雨の匂いと共に濃密に香る
白い花弁が頼りなく濡れそぼっている
ここは保健センターの真裏
香りが記憶を連れてくる
私が信頼していた精神保健福祉士
彼女の放った一言
「悲劇のヒロインに逃げ込まないでね」
ガーン
我慢して通ったデイケア
溌剌とした彼女を見るたびモヤモヤする
彼女は喜劇を演じているのか
一方私は
悲劇のヒロインぶっていたのか?
彼女が担当した中で
命を削り切った子もいた
その子も悲劇の主人公ぶっていたっていうの?
傘を打つ雨音に悲しみが滲む
クチナシの甘ったるい匂い
その白い清らかな花は
すぐに茶色く黒ずみ
虫害に遭うという
彼女の白い仮面もまた
黒ずんでゆくだろう
そのたびに新調するのだろうか
少し笑える
私は悲劇のヒロインぶってなどいない
私こそが悲劇のヒロインなのだ
そうでしょう?
凡庸な悲劇で何が悪い
この世間さまの顔色をうかがうつもり?
そんなの構うものか
私は必死に役者を演じる
このシナリオの結末は未完のまま
白紙のメモ帳
これからどう生きるか
それは自分で決めていい
癒えぬ傷を抱えた者たちよ
悲劇だっていいじゃないか
果ての断崖を飛び降りなかった
それだけで満点じゃないか
貴方も私も
でっちあげの仮面を脱いで
刻まれたシミもシワも
毛穴の隅々まで見せて
この傷だらけの舞台で
生々しく
誇らしげに
演じていこう
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